この細かいステップを実現するために、研究チームは「ホログラム」と呼ばれる“光の設計図”を毎回AIで計算し、その設計図を空間光変調器(SLM)という特殊な装置に高速で表示します。

SLMはレーザーの形や向きを自在に変えられるスクリーンのようなもので、1秒間に1000回というスピードでホログラムを書き換えます。

そのたびにピンセットの位置も微妙に変わるため、原子たちはぶつかることなく、みんなで一斉に少しずつゴールへと進みます。

まるでパラパラ漫画のコマを素早くめくると絵がなめらかに動くように、原子の動きもスムーズです。

この「原子の大移動」は、なんと全体で約60ミリ秒(0.06秒)という驚くほど短い時間で終わります。

しかも、これまでの方法と違い、並べる原子の数が1000個でも1万個でも、かかる時間はほとんど増えません。

これは世界的にも画期的なことです。

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FIG4は、この技術で作り上げた原子配列の“作品ギャラリー”を写真で紹介しています。まず、一番大きな例は45×45の正方形にほぼ全て原子が入った「2024個の原子配列」で、空きはたった1個しかありませんでした。また、「USTC」という大学名の文字を723個の原子でピッタリ描いたものも見られます。さらに、3層に分かれた立方体(直方体)の配列では、合計1077個の原子がきれいに3層に積み重なって並んでいます。もうひとつ面白い例は「ツイスト・グラフェン」を模した立体構造で、3つのシートを少しずつ角度を変えて重ねることで、特有の“モアレ模様”まで原子の並びで再現しています。どの例も、ほとんど欠けのない非常に美しい配列になっていて、実験で作られた実際の原子の写真が並んでいるのが特徴です。「原子で好きな形をつくる」技術の実力がわかるでしょう。Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays