温度が変わっても性能が変わらない特別な素材があれば、精密な機械や産業の設計が一気に進むと考えられます。
それと同じように、熱の伝わり方が安定した素材が登場すれば、未来の材料づくりに大きな革命をもたらす可能性があります。
今回の研究では、隕石の中に含まれるトリディマイトという鉱物で、「粒」と「波」が熱を運ぶ働きが温度によってちょうど釣り合い、ある温度の範囲で熱伝導率が変わらなくなる「PTI伝導」という現象が初めて実証されました。
この発見が実際に役立つ場面として、まず考えられるのは、高温の工場で使われる設備のエネルギー効率を高めることです。
たとえば、鉄を作るときに使われる「熱風炉(ねっぷうろ)」では、中を囲むレンガ(耐火れんが)の熱伝導率を少しだけ高めるだけで、加熱にかかる時間が約8.2パーセントも短くなると試算されています。
現在、鉄を1キログラム作るたびに、約1.4キログラムもの二酸化炭素(CO₂)が出ると言われており、エネルギーを無駄なく使える材料の開発は、地球の環境を守るうえでもとても重要な課題です。
もし、PTI伝導のように温度差に影響されない断熱材や熱交換器が実用化できれば、エネルギーの節約とCO₂の削減に大きく貢献できると期待されています。
さらに、この鉱物は火星でも見つかっており、その変わった熱の性質を調べることで、火星のような惑星が、温度の変化が大きい環境でどのように冷えたり進化したりしてきたのかを知る手がかりになるかもしれません。
PTIのような性質があるかどうかは、惑星の中の温度が時間とともにまっすぐ下がっていくのか、それとも複雑に変化するのかにも影響します。
そのため、PTIは惑星の中身や歴史を探るうえで大事なヒントになるのです。
この研究の背景には、AI(人工知能)と量子力学の組み合わせによる最先端のシミュレーション技術があります。
シモンチェリさんのチームは、原子どうしの力の関係をもとに計算する「第一原理計算」と、AIの力を組み合わせることで、これまで予測が難しかった材料の性質を高い精度で調べられるようにしました。