ただ理論を実証するには、特別な材料が必要でした。 そこで注目されたのがシリカ(SiO₂)の一種である「トリディマイト」という鉱物でした。
しかしそれは地球産のトリディマイトではなく隕石由来のトリディマイトでした。
なぜ地球産ではなく隕石産を選んだのかというと、地球の地殻ではトリディマイトは高温火山岩など特定の環境でしかほとんど見つからず、産出量が極めて限られているうえに、長い地質過程の中で別の鉱物相に変わってしまうことも多いからです。
一方、隕石中のトリディマイトは、形成当時の高温高圧環境がほぼそのまま保存され、地球環境にさらされることなく数十億年単位で安定してきたため、結晶的秩序とガラス的ゆらぎが共存する「中間構造」が手つかずの状態で残っている可能性が高いと考えられました。
そのためシモンチェリ氏らは1724年にドイツ・シュタインバッハに落下した隕石から採取したトリディマイトの試料で熱伝導特性を測定する計画を立てました。
果たして300年前の隕石から取り出した鉱物に、熱の法則を覆すような力が秘められていたのでしょうか?
300年前の隕石に含まれていた鉱物は熱の流れの法則に反する
約300年前の隕石から見つかった鉱物に、本当に不思議な性質があるのか?
研究チームはパリ自然史博物館に保管されていたシュタインバッハ隕石から特別な許可を得て試料を切り出し、理論で予測されていた性質が実際に現れるかを調べました。
実験では、切り出した試料の表面に金の薄い膜をコーティングし、「モジュレーテッド・サーモリフレクタンス(MTR)」という光を使った方法で熱の伝わり方を測定しました。(実際の温度はおよそ120K(−153℃)から室温までの範囲で行われました。)
この実験データを理論モデルと組み合わせて解析した結果、この鉱物は80K(−193℃)から380K(約107℃)あたりの広い温度の範囲で、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)がほぼ変わらないことがわかりました。