またこの違いは、熱の伝わり方にも大きく関係しています。
たとえば結晶では、温度が上がると原子がぶつかりやすくなり、熱がうまく伝わらなくなります(熱伝導率が下がります)。
反対に、ガラスでは、温度が上がると熱が伝わりやすくなるという性質があります(熱伝導率が上がります)。
つまり、結晶は温めると「にぶく」なり、ガラスは温めると「はりきる」ような性質があるのです。
この正反対のふるまいは、長い間、材料の研究や開発を難しくしてきました。
電子機器の冷却装置やロケットの断熱材などでは、どちらの材料を使うかによって、まったくちがう工夫が必要になります。
両方の良いところを持つ「理想の材料」は、なかなか見つかりませんでした。
さらに、なぜ結晶とガラスで熱の伝わり方が真逆になるのか、そしてその中間のような性質を持つ材料では熱がどう動くのかも、長いあいだ謎のままでした。
そんな中、2019年にコロンビア大学のミケーレ・シモンチェリさんたちの研究グループは、結晶とガラスの両方のふるまいを、ひとつの数式で説明できる「統一理論」を作り出しました。
この理論では、原子のつながり方は結晶のように整っているけれど、結びつく角度などの形にゆらぎがある――つまり「結晶っぽさ」と「ガラスっぽさ」の両方を持った材料が注目されました。
こうした材料では、「熱の粒」がまっすぐ進む道と、「熱の波」が飛び移る道が両方あり、温度を上げたときに、一方の道がせまくなっても、もう一方の道がひろがることで、熱伝導率がある温度の範囲でほとんど変わらなくなる、という予想が立てられたのです。
コラム:熱が通る「粒と波の経路」とは?
私たちが感じる「熱」は、目には見えないけれど、材料の中を移動している運び手がつかさどっています。この運び手は「フォノン」と呼ばれ、かんたんに言えば「仮想の熱の粒」のようなものです。結晶の中では、フォノンはまるで玉入れのボールのように、原子から原子へバトンをつなぐように熱を運びます。このように粒が道をまっすぐに進むような伝わり方が「粒の経路」です。でも、道が曲がっていたり、混み合っていたりすると、粒はぶつかりあって伝わりにくくなります。一方、「波の経路」は、水面に広がる波のように、熱が“揺れ”として伝わっていくタイプです。ガラスのように原子がバラバラな物質では、この波の通り道がうまくできません。ですが、量子力学のトンネル効果という現象によって、直接つながっていない場所へも熱の波が飛び移れるのです。そして温度が上がると、この波の通り道がより活発になって、熱が伝わりやすくなります。