このコラム欄でも報告したが、ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ナチスドイツ軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いの意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。

そのドイツの首相メルツ氏が国の存続をかけて戦っているイスラエルに今回、一時的に武器を輸出しないと表明したのだ。メルツ氏の発言は他の欧州諸国では歓迎されているが、メルツ氏が党首を務める与党「キリスト教民主同盟」(CDU)のイスラエル支持派からは不満の声が出ている。

メルツ首相はARDとのインタビューの中で、「我々は疑いなくイスラエル側に立っている。ドイツのイスラエル政策の原則は変わらない。この点に関しては何も変わらないし、今後も変わることはない」と説明、「「我々には意見の相違があり、それはイスラエルのガザ地区における軍事行動に関するものだ。しかし、友情はそれを乗り越えられる。イスラエルとの連帯は、ドイツ政府がイスラエル政府のあらゆる決定を承認することを意味するわけではない。ドイツは現在、軍事手段のみで解決されている紛争に武器を供給することはできないが、我々は外交的に支援したいと考えており、実際にそうしている」と強調した。

問題は、メルツ氏がほぼ単独で今回の決定を下したことだろう。CDUの姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)の連邦議会議員のシュテファン・マイヤー氏は、RTL/ntvのインタビューで「この決定は、メルツ首相がCSUおよびCSU指導部との綿密な協議、調整を経て下したものではないことだ。この決定は利益よりも害をもたらす」と主張している。