そこでイスラエルへの武器輸出の一時停止というカードを切って、SPDのCDUへの不満のガス抜きを図ったのではないか、というシナリオだ。メルツ氏を擁護する気はないが、国際問題での決定の背後に、国内の政権内の台所事情が大きかった、ということは決して珍しくはないのだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年8月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

パレスチナ自治区を実質的支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」がイスラエル領に侵入し、約1200人のユダヤ人、250人余りを人質にした奇襲テロを受け、イスラエルはハマスへの報復攻撃を開始。同時期、レバノンのイスラム原理主義組織ヒズボラとの戦闘、核開発計画を続けるイランとの戦闘、また、イエメンの反政府勢力フーシ派との戦いなど、アラブ周辺国との戦闘が続いているだけに、イスラエルにとって武器の確保は死活問題だ。

メルツ首相の決定について、ベルリン在住ユダヤ人のベン・サロモ氏はドイツ民間放送ニュース専門局NTVに寄稿し、「イスラエルは7つの戦線で生き残りをかけて戦っている。ハマス、ヒズボラ、フーシ派、シリア民兵、イラクにおけるイランとの代理勢力、ヨルダン川西岸、そしてイランのテロ政権との直接的な戦いだ。メルツ首相の決定は、ドイツにとって単なる地政学的なパートナー以上の存在である同盟国への痛烈な一撃だ。これはドイツの価値観、歴史的責任、そして世界の安全保障に対する裏切りだ」と非難している。

同氏によれば、「七つの戦線への攻撃は地域紛争ではなく、中東および西側諸国全体における唯一の民主主義国家への組織的な攻撃だ。その背後には、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦、ヒズボラといったテロ組織を数十億ドル規模の資金、武器、兵站で維持しているテヘランとドーハがある。イランとカタールの政権を止められる者はいない。カタールは、2025年第1四半期だけでドイツから1億6000万ユーロを超える軍事装備を受け取っている。テロ代理勢力へ資金と武器の供給をする一方で、イスラエルは武器供給を絶たれ孤立させられている」というのだ。