次に、参加者はヘッドマウントディスプレイ(HMD)とヘッドフォンを装着し、仮想のライブ会場にいるような空間で音楽を体験しました。

比較したのは3つの音響システムです。

1つ目はコンサート会場やホームシアターでよく使われる従来型のスピーカーと重低音専用スピーカーを組み合わせた方法です。

例えば、会場前方にある大きなスピーカーから音楽が流れ、床や空気全体が震えるあの環境を、そのまま室内に再現します。

重低音は空気を通じて身体に届き、お腹や胸が自然に揺れる感覚を作ります。

2つ目は、「Hapbeat Duo」という肩から首にかけて装着する市販のウェアラブル型振動デバイスを使う方法です。

見た目は細長いネックバンドのような形で、音楽の低音部分に合わせて内蔵モーターがブルブルと物理的に震えます。

たとえるなら、小型のマッサージ機を首元に装着して、ビートごとに震えが伝わるイメージです。

3つ目は、今回の研究で開発されたEMS静音重低音専用スピーカーを使う方法です。

こちらは腹部(腹直筋や腹斜筋)に貼り付けたパッドから筋肉に微弱な電気刺激を送り、音の低音パターンに合わせて筋肉を直接収縮させます。

結果として、お腹の奥からズシンと響くような感覚が生まれます。

外から震えを与えるのではなく、身体の内部から低音が湧き上がってくるのが特徴です。

参加者はロック、ポップ、クラシックという3つのジャンルの音楽を、それぞれの方法で聴き比べました。

そして、各方法について「没入感」「リズムの正確さ(リズム精度)」「音と身体の一体感」「快適さ」などを7段階で評価しました。

結果として、全体的にはスピーカー+重低音専用スピーカーの方法がもっとも高く評価されました。

特に、「好み」「没入感」「不快感の少なさ」では、他の方法よりも有意に良い結果が出ました。

音の調和(ハーモニー)でも、一部の場面ではスピーカー方式が上回っていました。