例えば、”n” に “g” を組み込んだ文字(ng音)や、”t” と “h” が合体した文字(th音)、”ae” が一体化した記号(æ音)などです。
すべて小文字で書かれ、発音と文字の対応が直感的になるよう工夫されていました。
ITAの狙いは、児童がまず1音素に1文字を対応させた表記で素早く読みを覚え、その後7〜8歳頃に標準のアルファベットへ移行することでした。
初期段階の読み速度向上が約束されれば、その後の学習全体にも良い影響があると考えられていたのです。
導入は1959年から実験的に始まり、1966年には英国158の教育当局中140が少なくとも1校でITAを採用しました。
ただし全国統一カリキュラムはなく、導入の可否は校長や教師の裁量に任されていました。
そのため同じ学校内でも一部クラスだけITAを使用するという不統一な状況も多く見られました。
では、この新しいアルファベットはどのような影響をもたらしたのでしょうか。
新アルファベット「ITA」教育が残した負の遺産
導入当初、ITAの成果は一部で高く評価されました。
多くの幼児学校教師が、ITAで学んだ児童は標準アルファベットで学んだ児童よりも読みの流暢さや理解度が優れていたと報告しています。
特に家庭に本がなく、読みの習慣がなかった子供たちには大きな自信を与えたといいます。

元教師のトニ・ブロックルハースト氏は「文字を覚えればそのアルファベット内の文章をすぐに解読できるようになり、自信がついた」と振り返ります。
しかし、この優位性は長続きしませんでした。
1966年の調査では、8歳頃にはITA学習者の読みの優位性が薄れ始めたことが示されました。
そして最大の問題は、標準アルファベットへの移行でした。
本来は全員が同じ時期に切り替えるはずが、実際には児童ごとに移行時期が異なり、同じ教室内でITAと標準文字が混在する事態に。