この通常のパターンが、ロシア・ウクライナ戦争に限っては適用してはいけないことになっているように感じている方々が多いのは、「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」という主張を、これまで欧州の政治家や、日本の軍事評論家や国際政治学者を含めた各国の「親欧派」の方々が主張してきたからだ。

カヤ・カラス氏Wikipediaより

日本の専門家層にも強い影響を与えた欧州のタカ派有力政治家の筆頭は、EU外務・安全保障政策上級代表のカヤ・カラス氏だろう。これまで「ウクライナは勝たなければならない‘(Ukraine must win)」「ロシアは負けなければならない(Russia must lose)」という強い命令形の口調を繰り返し、「われわれはロシアが崩壊するのを恐れてはならない」などといった扇動的な表現を好んで用いてきた。

「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」が、日本の軍事評論家・国際政治学者を含めた世界各国のウクライナ応援団の決まり文句になったのは、カラス上級代表によるところが大きい。

今回の欧州首脳の声明には、そのカラス上級代表が入っていない。EUの外務・安全保障政策の責任者であるカラス氏の名前なく、EUが声明を出しているのである。これはウクライナ応援団系の専門家の方々にとっては、一つの重大かつ象徴的な事柄と思われる。

もちろんフォンデアライエン委員長の名前が入っているので、EUとしては一名で代表したという形にはなっている。しかし、実はこの流れが、偶然によるものでもないと言える要素がある。

カラス上級代表は、トランプ政権発足直後の今年2月にワシントンDCに出向いた。シンクタンクで講演を行うのが名目上の目的だったが、トランプ政権の発足にあわせてDCを訪問したことは火を見るより明らかだった。なんといってもEUの外務大臣にあたる人物だ。新政権の要人の誰にも会わないほうが異常である。