ウクライナと欧州の安全保障上の懸念を考慮すべきだ(We share the conviction that a diplomatic solution must protect Ukraine’s and Europe’s vital security interests.)

という趣旨の文章は、どちらかというと批判というよりは、懇願に見える。

われわれは、国際的な境界線は武力によって変更されてはならないという原則を堅持する。現在の接触線(戦線)を交渉の出発点とすべきだ。(We remain committed to the principle that international borders must not be changed by force. The current line of contact should be the starting point of negotiations.)

という立場の表明があるが、原則論の表明であり、必ずしもトランプ大統領の交渉姿勢を先取りして懸念を表明するような文章ではない。

日本の北方領土を例にとるまでもなく、朝鮮戦争、カシミール紛争、キプロス紛争、最近のタイ・カンボジア紛争など、国境線が相互了解をへて確立されることなく、停戦合意が維持されている事例は、世界に多々ある。やはりトランプ大統領が調停にあたったアルメニアとアゼルバイジャンの間のナゴルノ・カラバフ紛争は、断続的に停戦と紛争の再発が繰り返された後、恒久的な平和条約が結ばれようとしている。

和平合意に至る前の停戦合意で、領土問題が未解決のまま、交戦状態の停止だけを双方が約するのは、むしろ通常のパターンである。したがって今回の欧州首脳の声明内容も、そのような路線で整理されていくことが可能な内容になっている。むしろその結末を期待していると言ってもよいだろう。

いずれにせよウクライナを除外した米・露間の協議で、停戦の仕組みの基盤を構築することはできても、国際的な境界線の変更を各国に認めさせることはできない。そこは、交渉当事者も、声明発出者も、折り込み済の点であろう。