しかし、その異常なことが起こった。トランプ大統領をはじめとするホワイトハウス関係者のみならず、ルビオ国務長官にすら、会うことができなかったのである。事前にトランプ大統領の政策姿勢を「融和政策だ」と批判していたカラス上級代表のタカ派的な立場を、トランプ政権の幹部全員が嫌っていることは明白であった。
この状況に危機感を持たない欧州人はいなかっただろう。まずは交渉プロセスに参画することが必要だ、しかしそれはカラス上級代表がEUを代表している限り難しい。
そこで浮上したのが、国際情勢に明るいという評価の高い加盟国の国家元首であるフィンランド大統領のアレクサンデル・ストゥブ氏に、事実上のEU特使としての存在感を持たせる方法だ。ストゥブ大統領が事実上のウクライナ担当の特使としての位置づけを持たされるようになったのは、惨めなカラス上級代表のDC訪問の直後の今年3月だった。
今回の声明でも、ストゥブ大統領の名前が、いわばカラス氏の代わりに入っている。
ストゥブ大統領は、社会科学分野では欧州のトップにランクされる大学院大学London School of Economics and Political Science(LSE)で国際関係学の博士号を1999年に取得している。私がLSEで国際関係学の博士論文の審査を1997年に終えて、正式取得したのが1998年だ。
ちなみにストゥブ大統領は、私と同じ1968年生まれである。LSE国際関係学大学院の期間が重なっているが、残念ながら私はストゥブ氏と個人的な親交を持つことはなかった。しかし北欧からの留学生が多々いたため30年後の今は記憶が薄れているだけで、会って会話をしたりしていたことくらいはあったかもしれない。いずれにせよあの時代のLSEの国際関係学大学院の雰囲気を共有していると感じることができるのは、私個人にとっては親近感を覚える点である。