実際、ストゥブ氏は、今年3月に自らウクライナ担当EU特使の必要性を力説しているインタビュー記事の中で、上述の停戦合意と和平合意の違いについて、淡々と説明している。

この「常識」が通用するだけで、カラス上級代表とストゥブ大統領の間には、天と地ほどの差がある。現在のEUのウクライナ政策は、カラス上級代表の存在感を下げ、ストゥブ大統領の存在感を上げることによって、トランプ政権の停戦交渉努力と調和した立場をとることを心がける路線に、微妙にシフトしているのである。

残念ながら、このシフトは、日本のメディアでも専門家層でも理解されていない。あるいは語られていない。私の「常識」は、依然として日本の専門家層の間では「親露派」の「闇落ち」思想として白眼視されている。

だがEUですら、水面下で様々な調整を行っている。現実のEUは、日本の専門家が片思いで期待するよりは、当然ながらもっと現実的だ。スターマー首相がトランプ政権の関心を得るために3月頃に熱心に語っていた「欧州軍」構想は、英国内の制服組の批判に直面していると伝えられてから、めっきりふれられなくなってしまっている。現実は厳しいのだ。

もっとも組織は、担当者を交代させることによってトーンを変えるという操作が可能だ。個人の言論人はそうはいかない。

果たして日本の軍事評論家・国際政治学者の方々は、今後「ウクライナは勝たなければならない」「ロシアは負けなければならない」のスタンスと、ギャラップ社の調査では今や7割近いとされる即時停戦を望むウクライナ国民の声との間に、どう折り合いをつけていくのか。