この状態で「観測」を行った場合、原子が最も観測されやすいのは存在確率のピーク部分です。
しかし原子が束縛から解放されると、時間経過とともに存在確率は空間に拡散し、ピークの山も低くなっていきます。
存在確率の分布が広がった観測を行っても、原子が一番みつかりやすいのは中央のピーク部分ですが、その他の場所で観測される確率も増えていきます。
また波としての観点からみると、このピーク部分は複数の波が重なり合って振幅が最大になっている部分となります。
このようなピークをともなった存在確率の分布は「波束」と呼ばれています。
一見すると水面でみられる波紋のように見えますが、原子に動きが少ない場合、現実世界で見られる水の波紋よりも波束は遥かに圧縮され、ピークは高い状態に保たれます。
さらにシュレーディンガーの方程式を使用すると、特定の条件下で波束が時間経過とともにどのように変化するかを予測することが可能です。
波束の制御と原子の存在確率の制御は同義であるため、波束をうまく制御し視覚化することができれば、原子の存在確率の制御技術において偉大なブレークスルーとなるでしょう。
そこで今回、ソルボンヌ大学の研究者たちは、この単一原子の波束の視覚化に挑むことにしました。
調査にあたってはまず、リチウム原子を絶対零度近くまで冷やし、磁場やレーザーなどを組合わせて可能な限りエネルギーを奪い、動きを止めました。
存在確率の分布を示す波束は原子の温度が低ければ低いほど、形成されるピークは高く狭い範囲に絞られます。
次に研究者たちは個々の原子の周囲に光格子を展開させ、原子の動きを限界まで1カ所に閉じ込めました。
光格子というのはレーザー(波の揃った光)をミラーで繰り返し反射させることで、格子状のポテンシャルの障壁を作る方法です。

これは卵のパックのように原子を一つ一つ捉えて固定することができます。
