研究チームは得られた「重力レンズの歪みパターン」と「星の速度データ」の両方を再現できるような質量分布モデルをスーパーコンピューター上で多数作成し、中心ブラックホールの質量を変えてシミュレーションを繰り返しました。

その結果、中心に太陽の360億倍ほどの質量を持つブラックホールを仮定したときに、観測された重力レンズ像と星の運動が最もよく整合することがわかりました。

言い換えれば、約360億個もの太陽を一箇所に詰め込んだような超巨大ブラックホールを想定しないと、この銀河で観測された特徴的な光の曲がり方を説明できなかったのです。

ブラックホールの質量がこれほど大きい場合、銀河中心部の星々は重力に縛られて非常に高速に運動しているはずですが、実際に観測された星の速度分布もそのシナリオと一致しました。

重力レンズ像の再現と星の速度分布の両方から、同じく360億太陽質量という推定値が導かれたのです。

以上の解析から、この銀河の中心には約360億太陽質量に達するブラックホールが5σの有意性で存在すると結論づけられました(統計的にも偶然の産物である可能性が極めて低い確実な検出を意味します)。

これは従来の遠方ブラックホール質量推定に比べて非常に高い信頼性を持つ結果であり、論文著者のトーマス・コレット氏も慎重な姿勢を維持しつつも「もしかしたら宇宙で最も重いブラックホールかもしれません」と述べています。

本研究の推定質量は、重力レンズ像と星の運動を併用する“直接法”で確定したものとしては最大級といえます。

またコレット氏によれば、この巨大ブラックホールは近くにあった他の超大質量ブラックホールとすべて合体した可能性が高く、「私たちは銀河形成とブラックホール成長の最終状態を見ている」とコメントしました。

私たちの天の川銀河の中心ブラックホールも、将来的には周囲の小銀河のブラックホールと合体し、さらに巨大化していくと考えられています。