この効果は、まるで宇宙に存在する巨大なレンズのように遠くの天体を明るく拡大して見せてくれる利点もあります。

研究チームは、この重力レンズの観測データと銀河中心部の星の運動データを同時に解析することで、遠く離れたブラックホールの質量を高い精度で割り出そうとしたのです。

直接測定された360億太陽質量の衝撃

直接測定された360億太陽質量の衝撃
直接測定された360億太陽質量の衝撃 / 図は「コズミック・ホースシュー(Cosmic Horseshoe)」という名前の銀河を撮影した宇宙望遠鏡の写真です。 この銀河は、手前にある巨大な楕円銀河がレンズの役割をして、その後ろにある別の銀河の光を曲げてしまうことで、馬の蹄鉄(U字型)のような光の輪を作っています。これを「重力レンズ効果」と呼びます。真ん中にあるのがレンズ銀河でこの銀河の重力がとても強く、後ろの銀河から来た光の道筋を曲げています。中心近くの筋は「レンズのど真ん中で、特に重たい部分に光が引っ張られた跡」となります。普通は遠くのブラックホールの質量を直接測ることは難しいのですが、この図に写った放射状アークと呼ばれる細い光の線が、ブラックホールの存在とその質量を「自然に描き出してくれた証拠」になります。

研究チームが注目したのは、「コズミック・ホースシュー」と呼ばれる珍しい形状の重力レンズを持つ遠方の巨大楕円銀河です(名前の由来は、背景の遠方銀河が馬蹄形の弧状に写っているため)。

この銀河は地球から約50億光年の距離に位置し、これまで知られる中でも有数の質量を誇るレンズ銀河でした。

研究者たちはまずハッブル宇宙望遠鏡(HST)の高解像度画像から、この銀河が背景の光をどのように曲げているか(重力レンズによる光の軌道)を詳しく調べました。

同時に、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載された分光装置MUSEを用いて、この銀河に存在する星々の速度分布も測定しました。

星の速度は銀河中心の重力ポテンシャル(質量分布)を反映するため、中心ブラックホールの重さによって微妙に変化します。