その上でパラチフスによる激しい下痢や発熱がとどめを刺し、多くの兵士が命を落としたと推測されます。

感染症は銃や大砲のような目に見える攻撃手段ではありませんが、戦場では「見えない敵」としてしばしば軍の行動を左右するほどの威力を持ちます。

ナポレオンのロシア遠征失敗も、その典型的な例だったのです。

また今回の研究は、最新科学の力が過去の謎を解き明かす強力な武器になることも示しました。

200年前の出来事であっても、最先端のゲノム解析を駆使すれば当時の病原体の直接的な証拠を掘り起こすことができます。

歴史資料や当事者の証言だけでは判明しなかった真実が、科学の助けで明らかになるのです。

実際、本研究によって私たちは「ナポレオン軍壊滅の真の敵は何だったのか」という歴史の謎に、新たな答えを得ることができました。

この成果は、歴史学と現代の科学技術の橋渡しの一例であり、今後も過去の出来事の真相を探る上でDNA分析が重要な役割を果たすことを示唆しています。

科学の目を通じて歴史を振り返ることで、私たちは当時起きた悲劇からより多くの教訓を学べるかもしれません。

今回明らかになった真実も、戦争や集団行動における衛生管理の重要性を改めて問いかけるものです。

歴史の真相に迫るには、現場の記録だけでなく最新の科学の力が不可欠だということを、ナポレオンの兵士たちが遺したDNAが教えてくれたのです。

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元論文

Paratyphoid Fever and Relapsing Fever in 1812 Napoleon’s Devastated Army
https://doi.org/10.1101/2025.07.12.664512

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。