実験の結果、単に汗臭い匂いだけを嗅いだとき、男性はリラックスできず、唾液のα-アミラーゼの量も増えてしまいました。

さらにそのストレスの影響か、一緒に見た女性の写真への評価も下がりました。

ところが排卵期の3つの成分を加えた良い匂いを嗅いだ場合、男性はリラックスし、α-アミラーゼも増えませんでした。

そして女性の写真に対する印象も良くなったのです。

これらの結果から、排卵期に増える3つの成分は、汗臭さを消すだけでなく、男性のストレスを抑え、気持ちを落ち着かせ、さらに女性への印象を良くするという一石三鳥の効果をもつことが明らかになりました。

ただ写真に対する印象の上昇は一定ではなく、写真に写る顔の評価が低かった場合には特に印象改善の効果が大きかったものの、顔の評価が元から高かった場合にはほぼ変化がみられませんでした。

研究者たちはこの点について論文で「高い魅力度を持つ顔立ちの女性は視覚的に十分ポジティブな印象を与えるため、嗅覚情報による影響は小さいが、魅力度の低い顔立ちの女性は、排卵期に増加する体臭と他の身体的特徴を相乗的に利用して、異性の関心を引きやすくしている可能性がある」と述べています。

匂いが変える人間関係

匂いが変える人間関係
匂いが変える人間関係 / Credit:川勝康弘

今回の研究でわかったことは、人がコミュニケーションをとるときに「匂い」が意外と重要だということです。

これまでは、人は表情や言葉、声のトーンなど、目や耳からの情報を中心にコミュニケーションをとっていると考えられていました。

しかし今回の研究では、ふだんあまり意識されていない「匂い」が、人の気持ちや行動に大きな影響を与えていることを分子レベルで明らかにしました。

具体的には、女性が赤ちゃんを妊娠しやすい排卵期に発する特別な体臭が、男性にリラックスした気持ちを与え、その女性への印象まで良くしていることがわかりました。

女性の体は、言葉や態度だけではなく、匂いという目に見えない「隠れたメッセージ」を通じても男性に情報を伝えているのかもしれません。