特に注目されたのは、「ドーパミン」と呼ばれる脳内物質との関係です。
ドーパミンは、人がやる気を出したり、報酬を感じたり、衝動的な行動を取るときに関わる神経伝達物質です。
トキソプラズマは、このドーパミンの産生を刺激する酵素を持っており、感染した細胞内でドーパミンを増やしてしまう可能性があるのです。
つまり、感染によって脳内のドーパミン量が変わることで、人の性格や反応の仕方に変化が起こるかもしれないというわけです。
ゴツォル氏らは、過去の複数の疫学調査や神経行動学のデータを再検討し、感染者に見られる傾向として、リスクを避けずにとる傾向、反応速度の低下、衝動的な判断、抑制の効かない衝動的行動や攻撃性の増加などが挙げられると指摘しています。
いくつかの研究では、トキソプラズマに感染している人ほど、リスクの高い運転行動や他人との衝突を起こしやすいことが報告されています。
そして気になるのが、トキソプラズマの年齢層における感染率の違いです。
寄生虫トキソプラズマは高齢者ほど保有率が高い

今回の研究をまとめたゴツォル氏は、過去の疫学調査を引用しながら、年齢とともに感染率が高まる傾向があることを指摘しています。
これは決して不思議なことではありません。
というのも、トキソプラズマに一度感染すると、たとえ症状がなくても体内には長期間にわたって寄生虫が残り続けるためです。
感染しても気づかず、そのまま年齢を重ねれば重ねるほど、感染者として統計に含まれる可能性が高くなっていくのです。
実際調査によっては、ヨーロッパの一部の国では、高齢者の最大80%近くが感染している可能性があるという報告もあります。この数字はあくまで一部の国の高齢層に限定した予想ですが、それでも高齢者ほど感染率が高い可能性があるという傾向は無視できません。
そして、ここで重要なのは「年齢を重ねること」と「トキソプラズマの感染」が、どちらも行動や感情のコントロールに影響を与える可能性を持っている、という点です。