まず1930年代から1940年代に多くの人や馬を死に至らしめたウイルス株はさまざまな生物の細胞をターゲットにすることができたことがわかりました。

しかし2005年に採取された現代のウイルス株は手広さが失われており、鳥類や爬虫類の細胞をターゲットにできるものの、人間を含む哺乳類の細胞を認識する能力を失っていることが判明しました。

先にも述べたように、ウイルスの感染能力はターゲットの細胞を認識することから始まります。

そして哺乳類の細胞を認識できないウイルスは、哺乳類に感染できません。

この結果は、北米において西部馬脳炎ウイルス(WEEV)は今でも自然界に存在するものの、人間や馬などの哺乳類を、主な感染対象にするのを辞めてしまったことを示しています。

実際、研究者たちが2005年に採取された現代版ウイルス株をマウスに接種させても病原性を示さなかったことが確認されました。

ウイルスが哺乳類から手を引いてしまった理由

現在の地球において哺乳類は最もありふれた種の1つとなっており、個体数も膨大です。

なのになぜ、北米の西部馬脳炎ウイルス(WEEV)は、哺乳類を主な感染源にするのを辞めてしまったのでしょうか?

研究者たちはその理由は複数あると述べています。

ウイルスが哺乳類から手を引いてしまった理由
ウイルスが哺乳類から手を引いてしまった理由 / Credit:Canva

ですが第1の理由は、馬用ワクチンの普及であると言えるでしょう。

西部馬脳炎ウイルス(WEEV)が最も猛威を振るった時期、馬は今よりも遥かに重要な生物でした。

現代の道路は主に自動車のものですが、当時の移動手段は馬が頼りでした。

そのため人類は西部馬脳炎ウイルス(WEEV)に対して馬用ワクチンを開発し対抗しました。

(※一方2024年現在、FDAから承認を受けたヒト用の西部馬脳炎ウイルスワクチンは存在しません)

ワクチンが普及した環境はウイルスにとって好ましいものではなく、主な感染先を別の種に乗り換える圧力をうみだします。