このようなウイルス感染が勝手に減少する現象は「ウイルスの沈没」として知られており、他のウイルス種でも確認されています。

新型コロナウイルスの場合でも、感染力や毒性の高い株が流行した次に低い株が流行し、再び高い株が優勢になるなど、奇妙な変動を起こしてたことを覚えている人も多いでしょう。

これまで、このようなウイルスの流行と沈没は漠然と「進化」が原因とされていました。

しかしウイルスの利益を考えれば、感染力は強ければ強いほうが有利なはずです。

なのになぜ結果的にウイルスたちは沈没を引き起こしたのでしょうか?

そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは、西部馬脳炎ウイルス(WEEV)を分析することで「ウイルスの沈没」が起こる基礎メカニズムを解明することにしました。

西部馬脳炎ウイルス(WEEV)は3種類の受容体を認識できる

どんな変化が西部馬脳炎ウイルス(WEEV)に衰退をもたらしたのか?

謎を解明するため研究者たちは、過去1世紀の間に採取された西部馬脳炎ウイルス(WEEV)のさまざまな株を分析し、遺伝子と毒性の変化を調べました。

西部馬脳炎ウイルス(WEEV)も新型コロナウイルスのように、宿主細胞の表面にある特定の構造(受容体)を認識し、感染をスタートさせます。

しかし新型コロナウイルスが細胞表面にあるACE2という構造のみをターゲットにするのに対し、西部馬脳炎ウイルス(WEEV)はターゲットにできる構造を3種類(PCDH10、VLDLR、ApoER2)も持っていることが明らかになりました。

これまでの常識ではウイルスが感染開始のターゲットにする構造はウイルスごとに1種類だけだと思われていたため、この発見は研究者にとっても大きな驚きとなりました。

さらに各時代で採取された西部馬脳炎ウイルス(WEEV)の感染方法を詳しく調べてみると意外な事実が判明します。

西部馬脳炎ウイルス(WEEV)は今でも自然界に存在するものの、人間や馬などの哺乳類を、主な感染対象にするのを辞めてしまった
西部馬脳炎ウイルス(WEEV)は今でも自然界に存在するものの、人間や馬などの哺乳類を、主な感染対象にするのを辞めてしまった / Credit:clip studio . 川勝康弘