狩猟採集時代のように小さな集団で暮らしていた時代、人と人とのつながりは生存に直結する重要な要素でした。そのため、どんなにささいな“拒絶のサイン”でも、それを敏感に察知して早期に対応することが、長期的に見れば生き残りに有利だったのです。

こうした仕組みが、現代の私たちの脳にもそのまま残っており、「あからさまな仲間はずれ」や「よそよそしい人の視線」「自分に否定的な意見」に対しても、同じ様に適用されている可能性が考えられます。

特にこの研究が注目するのは、「社会的につながりの多い人」ほどその反応が強かった、という点です。

友人や知人、支持者の多い人は、つながりを維持し、多くの人と良好な関係を保つことが、ある意味で「自分の立場や価値の証明」として機能しています。そのため、その関係性が傷つく兆候には、より大きな危機感を覚えるのです。

つまり人気者は、「みんなとうまくやっている状態」が自分の“社会的基盤”になっている分、それを脅かす要素には、脳が過敏に反応してしまうと考えられます。

今回の2つの実験が示しているのは、「社会的排除に対する脳の反応は、状況の明確さや相手の重要性に関わらず、自動的に起きてしまう」という人間の根本的な認知バイアスです。

ここには合理性は伴っていません。それは、まさに人間の脳が何万年もかけて身につけてきた“生存本能”の一部なのです。

本来、仲間や支持者が多いのであれば、少数の関わりが薄い人からの否定的なコメントは無視して構わないもののはずです。ネット上で人と交流するときには、こうした人間の性質を理解して、理性的に判断するよう心がけたほうが良いでしょう。

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元論文

Having more friends is associated with greater sensitization to social exclusion: Neural and behavioral evidence
https://doi.org/10.1093/scan/nsaf067