そのため、男性は基本的に見た目重視に傾きやすいのだと考えられます。
一方、女性は普段は「誠実さ」「信頼性」など長期的視点での判断を優先する傾向がありますが、性欲が刺激されたときには、見た目=身体的な魅力への感度が一時的に高まるのです。これは、進化的には「性的に引きつけられる相手との短期的関係の可能性を評価している」状態と考えられます。
またこの結果は、普段から比較的性欲が高い状態の男性に比べ、女性の方が考え方に対して性欲から受ける影響が大きいということも意味していると考えられます。
ここで重要なのは、「私たちはいつも一貫した価値基準で人を見ているわけではない」ということです。心の状態が変わると、相手を見る基準そのものも変わってしまう。この柔軟さこそが、今回の研究が明らかにした大きなポイントです。
では、これが私たちの日常の恋愛にどう関係してくるのでしょうか?
たとえば、見た目に自信がある人にとっては、相手の性欲が高まるような状況をうまく活かす戦略が有効かもしれません。肌の露出が多くなる海やプールでのデート、ロマンチックな恋愛映画、密室での距離感など、性欲が喚起されやすい環境では、相手の価値判断が見た目寄りになる可能性があるのです。
逆に、自分の魅力は内面にあると感じている人や、誠実さや信頼を重視してほしいと願う人にとっては、相手が冷静に判断できるような心理状態で接するほうが有利かもしれません。たとえば、昼間のカフェや散歩など、視覚的刺激や性的テンションがあまり高くならない場面を選ぶことは、相手に中身を見てもらうチャンスを増やします。
この研究は、「こうすれば恋愛がうまくいく」という恋愛マニュアルを提示しているわけではありませんが、恋愛の判断は思っているよりずっと一時的な気分に左右されやすいのは確かなようです。
いつもは誠実さを重視しているのに、なぜかそのときだけ見た目のいい相手に心を奪われた――という出来事があるとすれば、それは「性欲という心の状態が基準を一時的に切り替えた」と言えるでしょう。