今回の研究チームは、こうしたパートナー選びに見られる「性差」に疑問を投げかけました。彼らが注目したのは、恋愛感情や欲望の根底にある「性欲(sexual desire)」という心理的な動きです。性欲とは、生理的な衝動だけでなく、誰かに性的な魅力を感じて心が動くこと全般を指します。
研究チームは、「人が相手に求める条件は、そのときの心理状態によって変わるのではないか」という仮説を立てました。特に、外見重視かどうかという選好は、性欲がどれだけ強くなっているかに左右される可能性があると考えたのです。
この仮説を検証するために、研究ではまず554名の米国人成人を対象に、理想の結婚相手に求める要素を調査しました。参加者は「魅力的な外見」「共感力」「収入や地位」「創造性」といった要素にポイントを振り分ける課題に取り組みました。これは、限られたポイントで「理想の相手の性格パラメータを作成する」という、ゲーム形式の設定です。
併せてこの研究では、参加者に性欲を測定するための質問票に答えてもらい、外見重視の傾向と性欲の強さとの関係を分析しました。
結果、確かに既存の研究と同様に、男性は女性よりも外見に多くのポイントを割り振る傾向がありました。しかし興味深いのは、今回の研究では性別に関係なく性欲の強い人ほど、より外見を重視するという明確な相関が見られたことです。
しかしこれだけでは、「性欲が強い人は外見重視」という相関があるだけで、因果関係ははっきりしません。つまり、「外見を重視する人が性欲も強いだけでは?」という見方もできてしまいます。
そこで研究チームは次のステップとして、性欲を実験的に喚起することで選好がどう変わるかを確かめる追試験を実施しました。
この実験では、1,000人以上の大学生を無作為に2つのグループに分けました。一方のグループには、過去に「非常に性的に惹かれた体験」を思い出して書いてもらいました。これは、脳の中で性欲を活性化させる「プライミング」という心理的手法です。もう一方のグループには、中立的な課題として「最近うれしかった出来事」を書いてもらいました。