その後、両グループに再び理想の相手にポイントを割り振る課題を行ってもらい、性欲が喚起された状態とそうでない状態で、相手への評価がどう変わるのかを比較しました。
すると、性欲を喚起されたグループでは、特に女性の外見重視が大きく高まるという結果が出たのです。コントロール群では外見に割り振るポイントが低かった女性も、性的記憶を想起したあとは、男性とほぼ同じ割合で外見にポイントを割り振るようになりました。
この変化は、男性よりも女性の方が顕著で、「女性は性欲によって評価の軸そのものが変わる」という可能性を強く示唆しています。
また、追加の分析では、相手を「性の対象とはみなさない」ように指示した場合、参加者たちは再び外見よりも性格や誠実さを重視する傾向に戻りました。つまり、性欲が伴わなければ、人は中身を重視しやすいというわけです。
このように、ダン氏らの研究は、恋愛相手に対して「男性は見た目重視、女性は中身重視」という単純な傾向ではない、人間の恋愛観の柔軟さと心理的な変化の影響を浮き彫りにしたのです。
こうした発見は、今後の恋愛戦略に活かせるかもしれません。
あえて相手に性欲を持たせないことが恋愛戦略になる?
この研究から最も注目すべき発見は、「外見をどれだけ重視するかは、そのときの性欲の高まりによって変化する」という点です。
ではなぜ、男性はいつでも比較的一貫して外見を重視し、女性は性欲が喚起されたときにだけ見た目に注目するようになるのでしょうか。
研究者たちは、これを「性欲が“進化的なスイッチ”として働く可能性がある」と解釈しています。私たちの心は、恋愛やパートナー選びの場面で「今はどんな目的で相手を探しているのか?」という状態に応じて、価値判断のモードを切り替えていると考えられるのです。
たとえば、性欲が強くなっている状態では、生物学的・本能的に“性的魅力=繁殖の適応度”が重要視されやすくなり、見た目がその判断材料として強く機能するのです。これは男女共通の心理ですが、男性は常に性欲が高い傾向があり、また脳の報酬系が視覚刺激に強く反応するという神経科学的な背景もあります。