こうした事実を曖昧にしてことさら「カラダに良いもの」というイメージを先行させ、糖分塩分の過剰摂取で体調不良やむし歯の原因となるリスクは見て見ぬふり。
結果的にかえって健康を損なわせうる「健康マーケティング」を、うかつな大人が信じ込むのはある程度自己責任なのかもしれない。しかしその対象を子供たちや、子供たちの健康を願う親に向けるのならば、医療関係者として苦言を呈さざるをえない。
医学的に正しい熱中症や脱水対策とは
まず小中学校における熱中症対策として基本的な知識を確認したい。
熱中症を防止するための飲み物は、体の内側から体温を下げるために十分に冷えた水が最適だとされている。
塩分補給は工場や工事現場など暑熱環境での長時間労働には必要だが、学校の授業など1時間程度の運動には必要ない。心配ならば朝ごはんや給食をしっかり食べることでの塩分確保を意識すべきだ。
小学校などの現場からも熱中症の背景には朝食抜きや、寝不足などが潜んでいることが多いと声があがっている。
また人間には暑熱順化という機能が備わっており、1~2週間ほど暑さに慣れると塩分喪失を防ぎながら発汗量が増加していき、熱中症や脱水に強い体になることができる。毎日クーラーの効いた部屋にいる現代っ子が、急に炎天下で運動するときは注意が必要だ。
そして熱中症と脱水症は混同されがちではあるが、脱水症になったとき与えるのは経口補水液だ。経口補水液は健康な人にとっては味がまずくて飲めないし、そもそも脱水状態でもないのに予防目的に常飲するのは塩分過多になる。
こうしてみていくと、実はスポーツドリンクやイオン飲料でなければ熱中症対策ができないというシーンは存在しないのだ。
一方でスポーツドリンクやイオン飲料は人工的な糖分を多く含む飲料水であり、当たり前であるが毎日のように常飲すれば肥満・糖尿病およびむし歯の原因になる。
乳幼児とその保護者を対象とした研究では、週に数度以上あるいは毎日イオン飲料を与えるというリスク行動をしている保護者はそうでないグループと比較し、統計的有意にイオン飲料について「健康に良い」「多量に飲んでも安全である」と肯定的なイメージを持っており、「むし歯を増やす」という実在するリスクを軽視していた。