(1)極めて小さな細胞内の環境で、24時間周期のリズムを正確に維持するためには何が必要なのか?
(2)シアノバクテリアの時計を構成する「遺伝子が関わる仕組み(TTFL)」と「タンパク質だけの仕組み(PTO)」のうち、それぞれが時計の精度や安定性にどれくらい重要な役割を果たしているのか?
これらの疑問を明らかにすることで、生物が体内時計をいかに精巧に作り上げてきたかという生命の基本的な謎を解明できるかもしれないと期待されたのです。
研究チームはこうして、これまでの試験管の限界を超え、よりリアルな細胞モデルを作って体内時計の仕組みを調べることに踏み切ったのです。
生命の時計、人工細胞で再現成功

シアノバクテリアが小さな細胞の中で、なぜ正確に24時間という周期を保てるのかを明らかにするために、研究チームは「人工細胞」を使った新たな実験に挑戦しました。
ここで言う人工細胞とは、本物の生きた細胞ではなく、人工的に作った細胞そっくりの構造体のことです。
これは脂質でできた小さな膜の袋のようなもので、「巨大一重膜小胞(GUV)」と呼ばれています。
大きさはおよそ2〜10マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)で、ちょうど本物の細胞と同じぐらいのサイズです。
次に研究チームは、試験管よりずっと細胞に近い小さな空間を持つ人工細胞(GUV)を作り、その中にKaiタンパク質を閉じ込めることで、実際の細胞の状況に近い条件で時計が動くかを調べることにしました。
具体的には、KaiA、KaiB、KaiCの3種類のタンパク質を混ぜた溶液を人工細胞(GUV)の内部に入れました。
KaiBには特殊な蛍光タグを付けておき、タンパク質の動きを顕微鏡で直接観察できるように工夫しました。
このタグがついたKaiBは、KaiCと結合すると光り方が変化するため、光の強さを測定することで、時計のリズムが正しく刻まれているかを視覚的に確認できるのです。