KaiAはこのリン酸を付ける反応を促進し、KaiBは逆にリン酸を外す反応を助ける役割を持っていて、これらの相互作用のバランスによって、約24時間周期の振動が作られるのです。
実際、この3種類のタンパク質とATPというエネルギー物質を試験管の中で混ぜるだけで、自然に24時間の周期を持った振動(リン酸が付いたり外れたりするサイクル)が何日間も続くことが、2005年ごろに初めて発見されました。
これは生物時計の研究において画期的な成果であり、「生物の時計は非常に単純な仕組みで動くのだ」という驚きを科学者たちに与えました。
しかし、こうした試験管での実験には重要な限界がありました。
試験管内の反応は通常100マイクロリットル(10万分の1リットル)ほどの比較的大きな溶液で行われますが、これは実際のシアノバクテリアの細胞の体積(数フェムトリットル)に比べると途方もない差があります。
このようなサイズの違いによって、試験管内で観察される時計の振る舞いが、実際の生きた細胞でどのように正確に再現されているのかを直接的に確かめることはできませんでした。
さらに、本物の細胞内では、先ほど述べたTTFL(遺伝子による仕組み)とPTO(タンパク質による仕組み)が複雑に絡み合い、互いに影響を与え合っています。
そのため、それぞれの仕組みが時計の正確さにどのように貢献しているのかを正確に調べることも非常に難しかったのです。
そこで今回の研究チームは、この試験管実験の限界を乗り越えて、実際の細胞の環境に近い非常に小さな空間で、シアノバクテリアの時計タンパク質が本当に正確なリズムを刻むことができるのかを調べることに挑戦しました。
試験管ではなく、より小さく細胞に近い人工的な細胞を作り、その中で時計がどのように動くかを実際に観察することで、「生きた細胞の中の体内時計の謎」を解き明かそうと考えたのです。
このような実験を通じて、研究チームが解き明かしたかったのは主に以下の2つの疑問でした。