シアノバクテリアは地球上に広く存在する光合成を行う細菌で、その一種である「Synechococcus elongatus(シネココッカス・エロンガトゥス)」は、わずか数フェムトリットル(1フェムトリットルは10⁻¹⁵リットル、つまり1000兆分の1リットルという非常に微小な体積)の小さな細胞しか持ちません。
この極めて小さな細胞の中に、高精度の24時間時計が備わっているというのは驚異的です。
しかもこの細胞たちは、それぞれが独立しているにもかかわらず、ほぼズレなく完璧な24時間周期を維持しており、互いに時計を合わせるための情報交換をしているわけでもありません。
動物なら神経やホルモンを介して時間を合わせることができますが、シアノバクテリアはそれなしで完全に同期した時間を刻み続けるのです。
では、一体どのような仕組みで、こんなに小さな細胞がこれほどまでに正確な時計を持つことが可能なのでしょうか。
その謎は長い間研究者の間でも明らかになっていませんでしたが、近年の研究によって、この謎を解くための重要な手がかりが見えてきました。
シアノバクテリアの体内時計の仕組みは、大きく2つの要素から成り立っていることがわかっています。
一つ目は、「転写・翻訳フィードバックループ(TTFL)」と呼ばれる、遺伝子がタンパク質を作り出す働きを介した時計の仕組みです。
これは遺伝子のオンオフを繰り返すことで、リズムを調整しています。
もう一つは「ポスト翻訳型振動子(PTO)」と呼ばれるもので、これは遺伝子ではなく、タンパク質そのものが直接相互作用しあうことで時間を刻む仕組みです。
シアノバクテリアの場合、このPTOという仕組みが時計の中核を担っており、特に重要な役割を果たしています。
このPTOを構成しているのが、KaiA、KaiB、KaiCというたった3種類のタンパク質です。
シアノバクテリアの細胞内では、KaiCが「リン酸」という化学タグを付けたり外したりすることでリズムを作り出します。