つまり、時計が動き出せば必ず約24時間周期を刻みますが、条件が悪いと最初から動き出すことすらできないということです。
研究チームはさらに、この実験結果を説明するために、コンピューターで数理モデル(数学的に再現したシミュレーション)を作りました。
このモデルを使った解析によって、なぜタンパク質の量が多いほど時計が安定するのか、という疑問にも答えることができました。
モデルによる解析の結果、タンパク質が十分に多くある場合は、多少のばらつきがあっても時計の仕組みが安定し、多くの細胞が正しく時間を刻み続けられることがわかりました。
一方でタンパク質量が少ないと、偶然に必要な成分が不足してしまう細胞が多くなり、時計としての機能が失われてしまいます。
こうして、実際の実験結果とモデルによる解析が完全に一致し、「細胞内で正確な時計を維持するにはタンパク質を潤沢に準備することが不可欠だ」という結論が明らかになりました。
さらに、このモデルを使用してシアノバクテリアの時計のもう一つの要素である遺伝子のオンオフによるフィードバックループ(TTFL)の役割についても分析しました。
その結果、TTFLは単一細胞の時計精度そのものにはあまり影響を与えませんが、多数の細胞のリズムを集団として揃えるためには欠かせないこともわかりました。
細胞それぞれの時計(PTO)は、個別に見ると非常に正確ですが、集団として見ると周期が4時間ほどズレることがあります。
放置すれば数日後には各細胞がまったく異なる時間を示すようになり、細胞集団としてのまとまりが失われます。
しかし、遺伝子のオンオフを司るTTFLがあると、毎日決まったタイミングで時計の状態が「リセット」されるのです。
このリセットとは、例えば朝に全ての細胞に「時計を合わせなさい」と指示を出すようなものです。
つまり、細胞集団の時間を揃えるためには、定期的なリセットの仕組みが欠かせません。