この感覚の調節不全は、今回発見された視床と皮質の間のフィードバック回路の働きに何らかの問題が生じているためである可能性が高まりました。
この仕組みをさらに詳しく解明し制御することができれば、将来的にはASDのような感覚処理の問題を抱える人々のための、新しい治療法の開発にもつながるかもしれません。
さらに興味深いことに、この視床と皮質の間の調節システムは、意識の仕組みとも関係している可能性があります。
近年、一部の全身麻酔薬がまさに今回研究で注目された「2孔性カリウム漏洩チャネル」を開くことで、ニューロンの興奮性を極端に下げ、意識を失わせる働きがあることが示唆されています。
つまり、この感覚調整ダイヤルが「オフ」になることで、私たちの意識そのものが失われる可能性があるのです。
これは単に感覚の調節だけではなく、私たちがなぜ目覚めていて意識があるのかという根本的な疑問への重要な手がかりとなるでしょう。
私たちは日々さまざまな感覚に囲まれて暮らしていますが、脳はそれらの感覚をただ受け取るだけではなく、常に脳内の「調整ダイヤル」を回しながら柔軟に感覚を作り替えているのです。
今回の研究により、このような脳の巧妙な仕組みの一端が明らかになりましたが、視床がなぜ特定のニューロンだけを選び分け、特別な受容体を介して感覚を調整する仕組みを進化させたのかについては、まだ多くの謎が残されています。
今後の研究でこの謎が解き明かされれば、私たちが感じている現実そのものの秘密にも迫れるかもしれません。
全ての画像を見る
参考文献
The brain shapes what we feel in real time
https://www.unige.ch/medias/en/2025/le-cerveau-ajuste-nos-perceptions-en-temps-reel
元論文
Thalamocortical feedback selectively controls pyramidal neuron excitability
https://doi.org/10.1038/s41467-025-60835-w