研究チームは、この特殊な現象を「樹状突起の長持続性脱分極(DSDP)」と名付けました。
つまりPOmは、このDSDPという特別な仕組みを使って、ニューロンの感覚に対する反応を一気に高めるのです。
また、この興味深い現象は、すべてのピラミッド型ニューロンで同じように起こるわけではなく、特に「BT細胞」と呼ばれるタイプのニューロンでよく起きることがわかりました。
逆に「ST細胞」と呼ばれる別のタイプのニューロンではほとんど起きませんでした。
しかも、この細胞のタイプによって、視床のどの経路から主に信号を受け取るかが違うことも判明しました。
こうして視床は、まるで「選ばれた細胞」に対してのみ特別な信号を送り、感覚を調整しているようなのです。
それにしても、なぜ視床(POm)はこのようにニューロンのタイプを細かく選んで信号を送る仕組みを持っているのでしょうか?
視床と感覚調整の謎が解けた!自閉症や意識の理解にも光

今回の研究によって、私たちの感覚が鋭敏になったり鈍感になったりと一定でないのは、脳内に存在する「感覚調整ダイヤル」のような仕組みが働いているからである可能性が示されました。
これまでの脳科学では、皮膚や目、耳などから受け取った感覚情報がそのまま脳に送られ、それを皮質が受け取って意識的な「感覚」になるという単純な考え方が一般的でした。
つまり脳の「視床」と呼ばれる部分は、あくまでも情報を次の皮質に中継するための受動的な「中継駅」でしかないと考えられてきたのです。
しかし今回の研究により、視床は単なる中継役ではなく、情報の通り道に「調整用のスイッチ」を備え、皮質ニューロンの反応の仕方を能動的に調整していることが明らかになりました。
この調整スイッチの働きによって、同じ刺激であってもある時には強くはっきりと感じられ、ある時にはほとんど感じられないほど弱くなるという、私たちの感覚の不思議な「揺らぎ」が生み出されていたのです。