人間にとっての皮膚感覚にあたるのは、マウスでは主に「ヒゲ」の感覚です。
マウスのヒゲは周囲の環境を調べるための大切な感覚器官であり、そのヒゲに触れた刺激は脳の「体性感覚野」という領域で処理されます。
この体性感覚野にいる「ピラミッド型ニューロン」という特別な神経細胞が、感覚情報を意識的に感じるための重要な役割を担っています。
ピラミッド型ニューロンは名前の通り、細胞がピラミッドのような形をしており、特徴的な2種類の枝を持っています。
細胞の上部からは「樹状突起」と呼ばれる長い枝が上に伸びていて、下部には「基底樹状突起」と呼ばれる短い枝が複数広がっています。
同じニューロンの中でも、上部の枝と下部の枝では、受け取る情報の種類や役割が違うことが知られています。
上部の枝(頂上樹状突起)は、遠くからやってくる広い範囲の情報を受け取るアンテナのような役割を持ちます。
一方、下部の枝(基底樹状突起)は近くの細かい情報を処理する役割を担っています。
つまり、一つのニューロンが受け取る情報が枝ごとに異なっているため、どの枝にどのような情報が届くかによって、そのニューロン全体の活動の仕方が変化するのです。
研究者たちが特に注目したのは、ニューロンの上側に伸びている頂上部の樹状突起でした。
なぜなら、この部分には視床の中でも特に「高次視床(POm)」と呼ばれる領域からの神経が多く繋がっていることが分かっていたからです。
これに対し、「一次視床(VPM)」という別の領域からの神経は、主にニューロンの下側にある基底樹状突起に繋がっています。
つまり、視床からの神経には、細胞を直接興奮させる一次経路と、細胞の感度を調整する高次経路という2種類の経路があるのです。
研究者たちは、この高次視床(POm)からの信号が、感覚の感じ方を調整するための「鍵」になっているのではないかと考えました。
この仮説が正しいかどうかを確かめるために、研究チームは特殊な方法を使って、実際に脳の中で起きていることを詳しく調べました。