ウイルスは感染した細菌のタンパク質を作る工場を乗っ取り、自分自身を増やすためのタンパク質を作らせます。

ウイルスの遺伝子情報もまた、感染先の細胞と同じ遺伝暗号(コドン)を利用しています。

そこで、細菌側の遺伝暗号からウイルスが利用している特定のコドンをあらかじめ削除してしまえば、ウイルスがタンパク質をうまく作れず、細胞内で増殖できなくなるのです。

ウイルスが日本の機密情報を盗みに来たスパイAIだとするなら、日本語自体を大幅に圧縮・統一してスパイAIが理解できないものにしてしまうのです。

実際に2019年には、ケンブリッジ大学の研究チームが、64種類あるコドンのうち3種類を削除した大腸菌「Syn61」を作り出すことに成功しています。

このとき、Syn61株は多くのウイルスに対して強い耐性を示しました。

ところが後の詳しい研究によって、一部のウイルスはSyn61が削除したコドンを使わなくても感染できる仕組みを持ち込んでいたため、完璧なウイルス耐性とまでは言えないことが判明しました。

つまり、3種類程度のコドン削除では、まだウイルス感染を完全に防ぐことは難しかったのです。

こうした背景から、本研究の研究チームは、これまでよりもはるかに大胆な試みを行うことにしました。

具体的には、これまでのように数種類のコドン削除ではなく、7種類という、これまでにない規模での削減を行いました。

7種類も削ればウイルスが細胞の中で正常にタンパク質を作れる可能性がさらに低くなり、「理論上はどんなウイルス感染にも耐性を持つ細菌」をつくれると期待されたのです。

果たして7種類ものコドンを排除しても生命活動を続けることができたのでしょうか?

10万か所以上の修正で遺伝暗号の根本を削った

10万か所以上の修正で遺伝暗号の根本を削った
10万か所以上の修正で遺伝暗号の根本を削った / Credit:川勝康弘

この研究で科学者たちが最初に取り組んだのは、「遺伝暗号の圧縮」が本当に実現可能かどうか、小規模な実験で確かめることでした。