つまり、トマト属の植物が持つ「塊茎を作るタイミングを決定する遺伝子」と、Etuberosum属が持つ「地下茎の成長を促進する遺伝子」が、交雑によって一つのゲノム内に揃った結果、初めて塊茎が形成されるという進化が実現したわけです。

言い換えると、この2つの遺伝子はどちらか一方だけでは塊茎を作ることができず、2つが揃うことで初めてジャガイモという新しい植物が誕生できたことになります。

それでは、本当にこれら2つの遺伝子が両方揃わないと塊茎ができないのでしょうか?

この疑問を検証するため、研究チームは現代に生息している野生のジャガイモを使って特定の遺伝子の働きを人工的に止める「遺伝子ノックアウト実験」を実施しました。

もしこの2つの遺伝子が塊茎形成に不可欠だとすると、一方を働かなくした時に何らかの異常が見られるはずです。

その予想通り、トマト属由来のSP6A遺伝子を失わせた植物では、塊茎が形成されるタイミングが大きく狂い、本来地中にできるはずの塊茎が地上に出てしまうなどの異常が現れました。

また、Etuberosum属由来のIT1遺伝子を失わせた植物では、植物の背丈が非常に小さくなり、地下茎も塊茎もまったく形成されないという明らかな異常が現れました。

このように、どちらか一方の遺伝子が欠けるだけでも「塊茎を正常に作れない」状態に戻ってしまうことは、ジャガイモが2つの植物系統の遺伝子を両方とも揃えることで初めて「塊茎」という革新的な進化を遂げられた、何よりの証拠となったのです。

では、このような特殊な遺伝子セットを揃えたジャガイモは、その後どのように世界中に広がり、私たちの生活に欠かせない存在となったのでしょうか?

ジャガイモ進化が示した『ハイブリッドの力』とその可能性

ジャガイモ進化が示した『ハイブリッドの力』とその可能性
ジャガイモ進化が示した『ハイブリッドの力』とその可能性 / Credit:Canva

今回の研究によってジャガイモが「雑種起源の作物」であることが遺伝学的に明らかになりました。