この手法によって明らかになったのは、ジャガイモ属が誕生したのは今から約800万〜900万年前だということでした。
興味深いことに、この時期は、ジャガイモが現在分布している南米のアンデス山脈が急速に隆起し、高い山々が形成されつつあった時代にちょうど重なります。
アンデス山脈の隆起によって気候や環境が急激に変化し、新しい生態系が生まれていました。
ジャガイモの祖先となる植物は、こうした新たな環境に適応しながら進化を遂げたのです。
もともとトマト属とEtuberosum属は約1,400万年前に共通の祖先から枝分かれし、それぞれ異なる環境で別々に進化していました。
しかし分子時計解析から得られた結果によると、これらの植物はそれから約500万年ほど経った800万〜900万年前に再び出会い、交雑によって子孫を残すことができました。
こうして誕生したのが、地下に塊茎という特別な器官をもつ最初のジャガイモ属の祖先植物です。
別々の進化を遂げた植物が再び出会い、新たな種を作り出したというのは、まさに自然が引き起こした奇跡的な出来事と言えるでしょう。
しかし、このような偶然の出会いで生まれた雑種が、なぜどちらの親にもなかった「塊茎」という新しい器官を作り出すことができたのでしょうか?
塊茎ができるには、地下に伸びた茎の先端が膨らんでデンプンを蓄える仕組みを植物が持つ必要があります。
研究チームは、その仕組みを作るのに重要な遺伝子を特定するために、実験的な検証を行いました。
ゲノムをさらに詳しく分析していったところ、塊茎を形成するためには2つの遺伝子が揃う必要があることが判明しました。
まず1つ目は、トマト属から受け継いだ「SP6A」と呼ばれる遺伝子です。
この遺伝子は「塊茎をいつ作り始めるか」というタイミングを調節する役割を果たしています。
そしてもう1つは、Etuberosum属から受け継いだ「IT1」という遺伝子で、こちらは地下茎の成長そのものをコントロールする働きを持っています。