トマト属の植物は地上に実をつけるだけで、地下には太くなった茎を持ちません。
一方、Etuberosum属は地下に「根茎(こんけい)」という細長い茎を伸ばしますが、これはあくまで細いままで肥大化した塊茎のような構造にはなりません。
つまり、ジャガイモの持つ塊茎という特別な器官は、近縁の植物グループのどの種にも存在しない、ジャガイモ属だけが持つユニークな特徴だということになります。
生物学の世界では、このように他の仲間が持っていない特別な性質を「進化的イノベーション(革新的な進化)」と呼びます。
ジャガイモは、この塊茎というイノベーションのおかげで栄養を地下にたっぷり蓄えることが可能になり、厳しい環境にも耐えられるようになったのです。
では、このジャガイモ特有のイノベーションである「塊茎」は、どうやって生まれたのでしょうか?
その起源については長い間、研究者たちも頭を悩ませてきました。
というのも、見た目ではジャガイモは地下茎をもつEtuberosum属によく似ていますが、DNAを調べると、むしろトマト属に近いという矛盾した結果が出ていたのです。
これは、「ジャガイモはどちらの植物に近いのか」という、進化の謎をさらに深めるものでした。
この問題について、ロンドン自然史博物館の植物学者サンドラ・ナップ氏は、「これまでジャガイモ属、トマト属、そしてEtuberosum属の系統的関係は明確に分かっていませんでした。しかし今回、私たちのチームは、全ゲノム解析を用いてこの謎に本格的に挑むことになったのです」と語っています。
DNA解析ではトマト属に近い、しかし見た目ではEtuberosum属に近いというこの奇妙な矛盾の理由を探るために、研究者たちは本格的な遺伝子レベルの調査を開始しました。
私たちが知るジャガイモはいかにして誕生したのでしょうか?
100を超えるゲノム解析で明かされた『ジャガイモ家系図』の全貌
