広告代理店最大手の電通グループが、2020年12月期の通期決算で過去最大の赤字を計上した。赤字は2期連続となる。コロナ禍で広告需要が大幅に減り、海外事業などにおける「のれん」の減損損失も響いた。逆境の中、電通はどうこの危機を乗り越えるのか。

電通の2021年12月期業績は1,595億9,600万円の赤字

まず、電通グループが2021年2月に発表した2020年12月期の連結業績(2020年1〜12月)を見ていこう。

売上高に相当する収益は、前期比10.4%減の9,392億4,300万円。営業利益の赤字額は、前期の33億5,800万円から1,406億2,500万円に拡大。最終損益の赤字額は、前期の808億9,300万円から1,595億9,600万円まで膨らんだ。

赤字額が大きく膨んだ要因としては、広告需要の激減や巨額の減損損失、人員削減などの構造改革のための費用などが挙げられる。減損損失は1,400億円規模、構造改革のための費用は800億円規模だ。

次期業績見通しについては、新型コロナウイルスの収束が見えず、世界経済のマクロ環境が不安定であることなどから「開示を控えさせていただきます」としている。

売上高はネット部門でも1.4%減、海外はアジア太平洋が特に厳しい状況

次に、セグメントごとの業績を見てみよう。

国内事業セグメントにおける業務区分別の売上高では、「マーケティング・プロモション」部門で売上高が5.4%増となったものの、「新聞」では20.6%減、「雑誌」では32.1%減、「テレビ」では12.5%減、「インターネット」では1.4%減、「クリエイティブ」では15.0%減という結果だった。

新型コロナウイルスの感染拡大により、企業は広告戦略にかける予算を圧縮した。このことが売上減の主な要因と見られ、近年需要が拡大している「インターネット」区分においても通期では前期割れを余儀なくされた。

海外事業セグメントでは、地域別の売上総利益のオーガニック成長率が明らかにされている。全体では前期比13.0%減で、「ヨーロッパ、中東およびアフリカ」(EMEA)が12.4%減、「米州」が11.3%減、「アジア太平洋」が18.0%減となり、アジア太平洋地域が最も厳しい状況だった。

巨額赤字の元凶は1,400億円を超える「減損損失」

このように、新型コロナウイルスの感染拡大による企業の広告控えは、電通の業績に大きな影響を与えている。しかし、2020年12月期の巨額赤字の主な要因を売上収益の悪化と考えるのは誤りだ。赤字額1,595億円に対して、減損損失が1,400億円以上だからだ。

では、減損損失がどのような内訳・内容になっているか確認しよう。減損損失は国内事業セグメントで43億円、海外事業セグメントで1,403億円となっており、海外事業における減損損失が大きいことがわかる。

海外における買収企業の収益性などを見直した結果、ブランド価値を表す「のれん」の減損処理を余儀なくされ、減損損失は最終的に1,403億円となった。新型コロナウイルスの影響でさらに収益性が低下すれば、2021年12月期も減損損失に苦しむ可能性がある。

構造改革のための費用として国内事業で242億円、海外事業では541億円を計上していることにも注目したい。国内事業においては早期退職プログラムに関連した費用など、海外事業では人員削減費用などとして計上されている。

収益性を高めるための電通グループの対策は?

このような厳しい業績の中、電通グループは中期経営計画として「構造改革と事業変革による持続的な成長の実現」を掲げ、環境変化に対応する構造改革と持続的な成長を実現する事業変革を目指すという。

環境変化に対応する構造改革では、「合理的で機動的な組織構造」「恒久的なオペレーティングコストの低減」「バランスシートの効率化の加速」と、これらによる「長期的視点での株主価値の最大化」に挑むという。

例えば「合理的で機動的な組織構造」では、海外事業を統括する電通インターナショナルにおいて、現在160あるブランドを6つのグローバルリーダーシップブランドに統合することで、組織構造を合理化すると説明している。

持続的な成長を実現する事業変革に向けては、人材開発の強化などに取り組む。決算資料によれば、従業員に成長の機会を継続的に提供するためのトレーニングプログラムの提供や、リモートワークを考慮しつつ従業員コミュニティの醸成にも努めるという。

大規模人員削減も視野に入れる電通、今後はどうなる?

大規模な人員削減を視野に入れつつ、抜本的な構造改革で収益性を高めようとしている電通。コロナの影響で巨額の赤字を計上したが、これらの改革を粛々と進めていけば、より強い事業体として復活するはずだ。

2021年12月期もコロナ禍からは逃れられないだろうが、改革の進み具合といった「数字からは見えない部分」も注目していきたい。

執筆・
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

【関連記事】
仕事のストレス解消方法ランキング1位は?2位は美食、3位は旅行……
日本の証券会社ランキングTOP10 規模がわかる売上高1位は?
人気ゴールドカードのおすすめ比較ランキングTOP10!
つみたてNISA(積立NISA)の口座ランキングTOP10
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング