そもそも、なぜ扶養内で働くパート従業員の主婦たちは、扶養を外れようとしないのでしょうか。そこには制度の歪みはもちろん、家庭内での夫との衝突など、心理的な面でのハードルもあります。背景を主に3つに分けて考えてみます。
(1)手取り収入の逆転現象 社会保険料の負担により、収入が増えても手取り額が減ってしまう逆転現象は最大のハードルです。また、それまで健康保険は夫の被扶養者、国民年金は第3号被保険者として全く自己負担がなかった状況から、新たな負担が生じることへの心理的な抵抗感も大きいでしょう。
しかし、近年では最低賃金の急速な上昇により、パートタイム労働者の時間当たり給与も着実に増加しています。
このような賃金上昇により、130万円を少し超える程度の収入から、手取りが改善される150万円レベルまでの到達は、少し働く時間を増やすだけで十分達成可能な範囲となっています。
(2)税制・手当の制度設計の歪み 多くの企業では、従業員の配偶者が被扶養者である場合に配偶者手当(被扶養者手当・家族手当)を支給していますが、扶養から外れるとこの手当が支給されなくなり、家計に直接的な打撃となります。
この配偶者手当の喪失については、政府も課題と認識しており、配偶者の働き方に影響が及ばないような給与制度にすることを企業に呼びかけています。
また、妻の年収が増えて扶養から外れることで、夫の配偶者特別控除が段階的に減額され、夫の手取りが減ってしまうという事情もあります。
こうした制度設計の歪みが、扶養から外れるハードルを高くしているのです。
(3)家庭内での性別役割分担意識 働き控えの根本には、単なる経済的計算を超えた家庭内の心理的側面もあります。扶養から外れることを「家族の在り方の変化」として捉える夫婦が多いのです。
冒頭で紹介した「なんだか家族じゃなくなるみたい」「生活費は減らしてもいいよね」といった夫の発言がその一例です。