14億円調達を可能にした「ドメインがシリアルな起業家」の説得力
14億円のシードラウンド資金調達の成功は、Dress Codeが描くビジョンの蓋然性と江尻氏自身の説得力に他ならない。「ドメインがシリアルな(事業領域がつながっている)人たちが作ることが、私は必須条件だと思っていました」。 江尻氏は、複雑なBtoB SaaSの開発には、ドメイン知識に精通したシリアルアントレプレナーが不可欠だと強調する。
江尻氏の経歴は、その言葉を裏付けている。ワークスアプリケーションズでのERP開発・導入経験、ビットキーでの創業・急成長経験。「実務と経営の濃密な経験、50年分ぐらいを5年でこなしたような感覚なのです。だから、もう難しいとか動揺するといったことはありません。意思決定で悩むこともほぼありません」。 この圧倒的な経験値と意思決定の速さが、投資家にとって大きな魅力となった。
また、Dress Codeが目指すワークフォースマネジメント領域は、グローバルでWorkdayやRipplingといったデカコーン企業が多数出現している成長市場であることも、投資家への訴求ポイントとなった。
「ワークフォースマネジメント市場は、2024年に74億1000万ドル、2029年には103億5000万ドルに達する見通しで、年平均成長率は6.91%と堅調に推移しています。」
レッドオーシャンを切り拓く「コンパウンドプロダクト」戦略とグローバルへの挑戦
SaaS市場、特に人事労務管理の分野はレッドオーシャンと化していると江尻氏は指摘する。
「日本で言うと、例えば労務管理は非常に多くの製品があり、勤怠管理が100ほど、採用管理も40以上あって、非常に悪い言い方ですが、コモディティ化してレッドオーシャンになっていて、差別化不可能な状況になってきています」
Dress Codeがこのレッドオーシャンを切り拓く鍵は、「コンパウンドプロダクト」という独自の概念にある。
「データベース、ミドルウェア、UI/UXも含めて共通基盤化された製品の方が、結局、お客様は望んだことができます。しかし、誰もできていないので、それに挑む価値があるだろうというのが、我々のミッションの裏にあるのです」
江尻氏は、ディズニーランドを例にその難しさを説明する。
「ディズニーランドには地下の二層、三層にとても重要な秘密があります。たとえばゴミ箱は全部エアシューターで繋がっており、地上で捨てられたゴミは特定の場所に全部集まるのです。また、従業員はみんな地下から通勤します。“夢の国”のイメージを壊さないために、見えないところから出入りするんです。それを、既存の遊園地が真似しようとしても、一度全てを取り壊さない限り同じものは作れません」
つまり、初期段階でどれだけ強固な共通基盤(アーキテクチャ)を構築できるかが、その後の成長を決定づけるというわけだ。
さらに、Dress Codeは創業当初からグローバル展開を視野に入れている。
「最初から世界展開は視野に入れていましたが、具体的な国の選定など、細かく戦略的には考えていません。ただ、アジアという市場は非常に日本と共通点が多く、私の過去の経験則上も、同じプロダクトを最初から大きく作れば挑みやすい市場だと考えています。」
またアジア市場は、欧米の大型プレイヤーが進出しておらず、競合が弱いという特徴がある。
「彼ら(欧米企業)からすると、コミュニケーションコストが低く、商慣習が近いマーケットで相当なTAM(Total Addressable Market/獲得可能な市場)があるので、アジアの優先順位がまず落ちるのです。これは経済的な理由からも落ちていました」
Dress Codeは、このブルーオーシャンともいえる市場で、日本で培ったオペレーショナルエクセレンスを武器に勝負を挑む。
「珍しいのは、まず土台を英語で作って、そこに日本語、インドネシア語、ベトナム語、タイ語等の辞書を搭載し、設定変更で言語変更に対応していることです。これを初手から入れる会社は、おそらくほぼないでしょう。ロケーションと言語の分離をかけるというのは、私たち以外見たことないと思うのですが、実はワークスアプリケーションズで、似ているものがあるのです」