社会的な繋がりは、孤独感を和らげたり、精神的ストレスを軽減したりすることで、心臓病や免疫機能の低下などを防ぐ効果があると言われています。

しかし、これらの研究はポジティブな関係、つまり「支えになる人々」の良い面ばかりに焦点を当てており、対人関係の負の側面は十分に検討されてきませんでした。

実際には、人間関係の中には明らかにネガティブな影響を与える関係もあります。

頻繁に批判してくる相手や、何かと問題を起こす相手と接することで慢性的なストレスが蓄積されると、それが身体の中に「目に見えない負荷」をかけてしまいます。

この負荷は専門的には「アロスタティック負荷」と呼ばれ、日々の小さなストレスが積み重なり、細胞レベルで徐々に体を老化させていくものです。

例えば、夫婦の不和や孤独感が続くと、細胞の寿命を司るテロメアというDNAの一部分が短くなったり、遺伝子の働きを調節する仕組み(エピジェネティクス)が変化したりすることも知られています。

こうした変化は、心臓病や糖尿病、免疫力の低下など、実際の病気のリスクを高めることが分かっています。

それにもかかわらず、これまで私たちが日常的に経験する「ネガティブな人間関係」による影響は見過ごされてきました。

身近にいる人から受けるストレスが、長期的に健康にどれほど悪影響を与えるかを詳しく調べた研究はまだ少ないのです。

最近の研究では、私たちの周りに存在するこうした「困った人々」が実は想像以上に多く、日常の慢性的なストレスの主な原因になっている可能性が指摘されています。

「ハスラー(hassler)」と呼ばれるこうした相手は、職場のストレスや経済的な不安のように慢性的なストレスを生じさせ、体内の炎症反応を強めたり、心臓病などのリスクを増加させたりすることが示されています。

さらに興味深いことに、単純にネガティブなだけの関係だけではなく、「良い面と悪い面が混在する複雑な関係」の方が、健康に与える悪影響が大きいことが明らかになっています。