つまり、多くのペアに渡すためには、一回に渡すもつれの量を非常に小さくしなくてはなりません。

そして、一回に渡す量を減らせば減らすほど、多くのペアに渡せますが、各ペアが受け取る量が非常に小さくなってしまいます。

これでは、実際に量子通信や暗号といった現実的な応用には使えないかもしれません。

そこで研究チームは、この「渡す量」と「渡せる人数」の関係を詳しく調べました。

その結果、理論的には、渡すもつれの量を非常に小さくすれば、どこまでも多数のペアに渡すことが可能になる一方で、現実的な下限値(各ペアが最低限これだけのもつれを持っていないと意味がないという値)を設定すると、渡せるペアの数には明確な限界があることがわかりました。

例えば、「各ペアが最低でも2のマイナスx乗(2^{-x})という量のもつれを必要とする」と具体的に決めると、初期のA–B間のもつれ量によって、最大で何ペアまで渡せるかが数学的に決まってしまうのです。

つまり、渡す量を一定以上に保つと渡せるペア数は限られ、逆に多くのペアに渡すためには渡す量が微量になってしまうという「トレードオフの関係」があるのです。

こうした関係を理解するために、研究者たちはあるシンプルな数理モデルを用いてシミュレーションを行いました。

このモデルでは、粒子同士がある種の磁石のような力(スピン相互作用)でお互いに影響し合う状況を仮定しました。

そして、その力の強さや作用する時間を調節して、もつれがどのように移動するかを詳しく観察したのです。

その結果、ある一定の時間まで相互作用させると、もともとA–Bペアが持っていたもつれが完全にゼロになり、そのすべてが新しいC–Dペアへと移動することがわかりました。

これは、もともとあったバケツの水を全て新しいバケツへ移し替えたのと同じ状況です。

ところが、操作する時間を短く調整すれば、A–Bペアのバケツに水を残したまま、一部だけをC–Dペアのバケツへ移すことも可能だったのです。