現在までに発見された約3,300種類以上の核種(原子核の種類)の中で、安定して自然界に存在できるのはわずか300種類にも満たないのです。

それ以外の大多数の原子核は、時間が経つにつれて崩壊して、別の元素に姿を変えてしまいます。

これを「放射性崩壊」と呼んでいます。

放射性崩壊には、いくつかのよく知られたパターンがあります。

たとえば、原子核からヘリウムの原子核(α粒子)が飛び出す「アルファ崩壊(α崩壊)」、中性子が陽子に変わり電子を放つ「ベータ崩壊(β⁻崩壊)」、陽子が中性子に変わって陽電子を放つ「陽電子放出(β⁺崩壊)」、原子核が電子を取り込んで崩壊する「電子捕獲」、高いエネルギーを光として放つ「ガンマ崩壊(γ崩壊)」、そして重い原子核が複数の小さな核に分裂する「核分裂」などです。

これらの基本的な崩壊モードは、20世紀半ばまでに次々と発見され、原子核物理の基礎を築いてきました。

しかし最近の研究技術の進歩によって、こうした典型的な崩壊とは異なる「珍しい崩壊モード」が次々と見つかっています。

特に、陽子の数が中性子より極端に多い、いわゆる「陽子過剰核」と呼ばれる原子核において、従来の予想を超える崩壊現象が報告されているのです。

そのひとつが、陽子が単独で飛び出す「1陽子放出(1p放射)」という現象で、1970年代に初めて発見されました。

さらに21世紀に入ると、2個の陽子を同時に放出する「2陽子放出(2p放射)」という現象も確認されました。

そして近年では、さらに複数の陽子を同時または連続的に放出するような、極めて珍しい崩壊も観測されるようになりました。

こうした異例な現象は、陽子が原子核内にとどまるために必要な核力(陽子や中性子を結びつける力)の限界や性質を調べるうえで重要な手がかりを与えてくれます。

言い換えると、こうした研究は、原子核という積み木をどこまで崩さずに積み上げられるのか、限界を試す試みでもあります。