こうした背景から、世界中の核物理学者たちは、安定領域から遠く離れた「極端に陽子過剰な原子核」を探し、調べることを目指しています。

そこで重要な目安となるのが「陽子ドリップライン」という境界線です。

陽子ドリップラインとは、陽子の数が多すぎて、もはや核力が陽子を核内に束縛しきれなくなり、陽子がまるで水滴のようにポタポタと核外へ滴り落ちてしまう限界点のことです。

この境界を超えると、核内の陽子は安定して存在できなくなり、次々と外に飛び出してしまいます。

今回研究対象となったアルミニウム20は、まさにこの陽子ドリップラインを超えた位置に存在する原子核であり、理論上はすぐに陽子を放出して崩壊することが予測されていました。

しかし、実際にどのような崩壊を示すかは不明であり、またその崩壊が既存の理論的予測にどれだけ一致するかを調べることが、この研究の主な目的となったのです。

では、アルミニウム20は具体的にどのような形で崩壊を起こすのでしょうか?

アルミニウム20の自己破壊過程

アルミニウム20はどのような崩壊を起こすのか?

答えを得るため研究チームは、「飛行中崩壊法」という特別な観察方法を用いて、このアルミニウム20を捉えることに挑戦しました。

この方法は、加速器で高速に飛行する粒子が、移動の途中で崩壊して放出する粒子の軌跡をその場で観察する技術です。

実験はドイツのダルムシュタットにあるGSIヘルムホルツ重イオン研究センターで行われました。

この施設には非常に大きな粒子加速器が設置されており、研究チームはここで二次ビームとしてマグネシウム20(20Mg)の粒子を高速に加速し、特定のターゲットに衝突させました。

粒子同士が激しく衝突すると、さまざまな種類の核破片(フラグメント)が大量に発生します。

その無数の破片の中には、探し求めているアルミニウム20の原子核も、ごくわずかに含まれているのです。