例えば、この研究の主役であるアルミニウム20は、同じアルミニウムの仲間ですが、中性子はわずか7個しかありません。
陽子が13個に対して中性子が7個という極端なバランスのために、このアルミニウム20という原子核は非常に不安定です。
なぜアルミニウム20は「自己破壊原子」なのか?
私たちが「自己破壊」という言葉を聞くと、映画やアニメに登場する「自爆装置」を思い浮かべるかもしれませんが、実は最近発見された「アルミニウム20」という原子核がまさにそれに近い性質を持っています。原子核は普通、陽子と中性子という粒子が一定のバランスを保って安定しています。身近なアルミホイルやアルミ缶の原料であるアルミニウム27もそのひとつで、陽子13個と中性子14個というちょうど良いバランスを保っているため、壊れずに安定して存在できるのです。ところがアルミニウム20という原子核は、この「安定できるバランス」から極端に外れています。具体的には、陽子13個に対して中性子が7個しかないため、核の中でバランスを取るのが非常に難しい状況に置かれているのです。陽子同士はプラスの電気を帯びているため互いに強く反発します。中性子が十分にあればこの反発を弱めて安定させることができますが、中性子が少ないアルミニウム20ではその抑え込みが効きません。その結果、この原子核はまるで「自分自身の反発力に耐え切れなくなり」、生まれた瞬間に崩壊を始めてしまいます。ある意味でアルミニウム20は出現そのものが崩壊とイコールで結ばれたような存在であり、自己破壊原子とも言える存在なのです。(※後述するように生まれてすぐに3陽子連鎖崩壊(1陽子→2陽子)を起こし、核としての形を瞬時に失う点も自己破壊的と言えるでしょう)
私たちの身の回りに安定して存在している原子核は、実は原子核の世界全体から見ればほんの一握りです。
原子核には「安定の谷」と呼ばれる領域があり、これは陽子と中性子の数がちょうどバランスよく整った原子核だけが集まったエリアです。