こうした背景から、がん治療の研究者たちは、これまでとは全く異なる視点から新しい治療法を探し始めています。
中でも、自然に存在する植物に含まれる薬効成分に着目し、そこからがんを治療する新しい物質を探し出すという方法が注目されています。
植物由来の成分を使うという方法は、体にかかる負担が比較的少なく、安全性が高いことから特に期待されています。
そのような植物の一つとして、最近、身近な甘味料として知られているステビア(学名: Stevia rebaudiana)が注目されています。
ステビアは南米原産の多年草で、その葉は非常に甘味が強く、食品や飲料の砂糖代替品として広く使われています。
ステビアがこれほど人気を集める理由は、その強い甘さがあるにもかかわらずカロリーがゼロであり、健康的なイメージがあるからです。
実はステビアの葉には甘さをもたらす「ステビオール配糖体」と呼ばれる成分以外にも、多くの有益な成分が含まれています。
その中には、抗酸化作用(体の酸化を防ぎ、老化を遅らせる作用)や抗炎症作用、血圧を下げる降圧作用、さらにはがん細胞の増殖を抑制する抗がん作用など、健康にプラスになる働きを示すものがあることが知られています。
最近の研究では、ステビオール配糖体やそれに関連した物質がいくつかのがん細胞に対して毒性を持ち、細胞の増殖を抑える効果を発揮するという報告が出ています。
しかし問題は、ステビアの葉をそのまま抽出した粗い状態のエキスでは、そのような抗がん効果を十分に発揮することが難しいということです。
実際に行われた研究では、粗いステビア抽出液を使った場合、がん細胞を効果的に減少させるには非常に高濃度の投与が必要であると報告されています。
つまり、ステビアの葉に眠る抗がん効果を本当に活かすためには、その成分を効果的に引き出す工夫が必要というわけです。
そこで広島大学の杉山政則教授(予防医学)らの研究チームは、ステビアが持つ抗がん成分をより効率的に引き出すために、微生物の力を借りる「発酵」という方法に着目しました。