実験に参加したのは、アメリカ国内から集められた合計2524人の成人です。
最初の実験では、仮想現実の空間で参加者に道を選ばせる課題を行いました。
目標地点に向かう途中で、「今来た道を少し戻れば、より短いルートを通れる」という情報を提示します。
しかし、実際には多くの人がその近道を避け、遠回りでも前に進み続ける道を選ぶ傾向が見られました。
この結果だけでも、人が“引き返すこと”に強い抵抗を持っている可能性が示唆されますが、研究はここで終わりません。
次の実験では、単語を作る課題を用いて、身体的に戻る必要がない状況でも“やり直す”と感じるだけで選択に影響が出るかを検証しました。
参加者は「Gから始まる単語を40個書き出す」という課題を与えられ、10個終えた時点で「Tから始まる単語を30個作る方が簡単で速く終わる」という提案をされます。
ただし一部の参加者には「これまでの10個は無効になり、やり直しになります」と伝えました。
すると、「やり直し」と表現されたグループは、より効率的であると分かっていても、新しい課題に切り替えるのをためらう傾向が顕著に見られました。
これらの実験は、たとえそれが有益な選択だったとしても「戻ること」や「やり直すこと」そのものに対して、人が直感的に強い嫌悪感を抱くことを明確に示しています。
なぜ人は「戻る」ことにそこまで抵抗があるのでしょうか?
引き返せば早くゴールできるのに、人は前進を選んでしまう
今回の研究では、さまざまな実験を通して、人が「戻ってやり直す」ことに対して強い抵抗を示す傾向があることが明らかになりました。
同様の傾向は、買い物のシミュレーション実験でも確認されました。
この実験では、参加者が仮想ショッピングモール内の店舗を移動しながら、特定の商品を探して買い物を進めていくという課題が与えられました。途中で買うべき商品が新たに追加されるという設定で、その商品がすでに立ち寄った店舗に確実にあることが明示された場面でも、多くの参加者はその店に引き返すことを避け、まだ訪れていない店舗に進もうとしました。