つまり、「戻ればより楽なルートで早く着ける」ことが分かっているのです。
でも、実際にその場に立たされると、多くの人が「ここまで来たのに戻るなんて…」と感じてしまうのではないでしょうか。
20分の引き返し時間込みで考えても到着時刻が早くなるのに、「戻る」という行為そのものに抵抗を覚えてしまう──そんな不思議な心理に着目したのが、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の研究者たちです。
彼らは、あえて不利な道を選んでしまう人の行動を実験で再現し、「やり直せば効率がよいと頭でわかっていても、感情的にそれができない」心理のメカニズムについて調査を行ったのです。
これまでも、人がいまの選択に固執してしまう傾向は、心理学でたびたび指摘されてきました。
たとえば「現状維持バイアス(status quo bias)」とは、「いまの選択肢を変えるのは不安だから、このままでいこう」と無意識に思ってしまう心理のことです。
また「埋没費用の誤謬(サンクコストの誤謬, sunk cost fallacy)」という考え方もあります。
これは、コンコルド効果という呼び方の方が有名かもしれませんが、どう考えても続けると損失の方が大きくなる状況に対して「ここまでお金や時間をかけたのだから、もったいなくてやめられない」と過去の投資に引きずられて、やめる決断ができなくなる心理のことです。
ただし、これらの理論は「やめる(撤退する)」決断に対するもので、「引き返す」という行動に対する心理的抵抗はうまく説明できていません。
カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の研究チームは、こうした「過去の投資を惜しむ」理由だけでは説明しきれない、人が「後戻り」することそのものに抱く抵抗感に着目しました。彼らは、「もしかすると人は、“戻る”という行為自体を避ける傾向があるのではないか」と考え、その仮説を検証するために4つの実験を行いました。