ワタナベ君:親子上場には当事者にしてみればメリットもあったのでしょうが、いまは批判一色。その論理は“不平等”、さらに言えば“不公正”ですか(表1)。

表1 親会社・子会社それぞれのメリットとデメリット出典:Money Forwardクラウド(2025年1月14日)
教授:メリットとして挙げられているもののなかに、“もっとも”と思われるのもある。
人材の採用だね。東証上場会社といえば日本では一流ということになり、採用に有利だが、このロジックは外国人には適用しない。彼らが長い間、培ってきた西洋の民主主義の核心は“平等”と“公平”だから、大企業は有利、中小企業は不利とは考えない。
ワタナベ君:例をあげましょう。A社はB社の株式の51%を所有しているとする。そうするとB社はA社の言うことを聞かざるを得ない。A社との取引で、例えばA社の製品を高くても買わされたり、自社の製品をA社に安く売らされたり。露骨なのは配当ですね。業績以上の配当を支払えばA社は潤うけど、B社の経営が圧迫される。こういう事態は、B社の49%の株主に不利益となる。
教授:いわゆる少数株主の保護だね。日本企業に投資しようとする外国人は、彼らの最終目標が何であっても、最初は少数株主としてスタートするから、これでは困るわけだ。でも、こういう理屈はかなり一般的に言われているからここで改めて議論する必要もないでしょう。この問題に関してほとんど注目されていないことがある。それは創業者利得だ。
ワタナベ君:かのヒルファディング(R. Hilferding)が『金融資本論』(原著名Das Finanzkapital、1910年)で明らかにした概念ですね。
教授:個人会社を株式会社に改組する、そして株式市場に公開する。そうすると会社の現在価値から計算したものより高い株価がつく。この差額が創業者利得だね。『The NEXT』 でPBRの説明の際に示した図を見て欲しい(図2)。

図2 資本の運動 出典:濱田康行『The NEXT』(2024年)、P.63