大企業から中小企業へ、段階的な市場攻略
現在のeMotion Fleetの主要顧客は大企業が中心だ。特に東証プライム上場企業は、そのほとんどが2030年までのCO2削減目標を掲げており、残り5年という期限を前に危機感を持つ企業が多いという。大企業ではコンサルティングサービスから始まり、一つの営業所で実証後、他拠点に展開されていくケースが多いという。
一方、同社が将来的に展開を目指す主な対象は中小企業だと白木氏は説明する。
「物流、バスやタクシーの運行会社など、物と人を運ぶ事業者の95%以上は100台未満の車両を保有する中小事業者です。脱炭素化の波は必ず来ますが、CO2削減という理想論だけでは響きません。EVのほうが維持費を含めて安くなるという経済性をセットで示す必要があります」(白木氏)
ただし、中小事業者は全国に分散しており、一社一社への直接営業は効率が悪い。そこで同社は販売パートナー戦略を展開。2025年4月には常陽銀行のアクセラレーションプログラムに採択されるなど、北関東3県の取引先への脱炭素化提案を進めているほか、リース会社や電力会社とも連携。地域密着型のネットワークを活用することで、人員を増やすことなく効率的な案件獲得を実現している。
この戦略を後押ししているのが、大企業の脱炭素化要請による波及効果だ。大手運送会社では委託先の脱炭素化も求められる「Scope3」への対応が必要となり、そうした企業からの紹介による案件が増加している。元請けや荷主からのいわゆる「グリーン物流」への要請も相まって、対応しなければ“選ばれない時代”への危機感を持つ中小事業者が増えている。
「社内にEVの専門知識を持つ人材がいない」。そうした中小事業者にとって、導入から運用まで包括的に支援するワンストップサービスへのニーズが高まっているのが現状だ。
「2万台超の商用EV導入実績」という国内に例のない強み
eMotion Fleetの最大の強みは、 創業者2人が前職時代を含めて、累計2万3000台以上のEV導入・運用実績を持つことだ。日本のEV普及率がおよそ2%という現状では、これほどの規模で商用EV導入を経験した人材は極めて少ない。

「まだ日本は黎明期なので、EVを少しずつ導入している事例はありますが、数万台という規模で運用されている事例はほぼありません。私たちは導入から運用までの肌感覚があるため、プロダクト開発の際も導入先の現場の目線で、どういう情報をどう見るべきかが経験値からわかっていました」(デニス氏)
この現場感覚に基づくプロダクト開発により、同社は導入先企業にとって真に必要な機能に特化したソリューションを提供しているという。
さらにeMotion Fleetは、「商用EVにまつわるプロ集団」として組織を構築。自動車業界出身者やコンサルティング業界、商社出身者など多様なバックグラウンドを持つグローバル人材が加わり、エンジニアチームの会議は英語で行われている。
こうした専門性が同社の機動力を生み出し、顧客からの信頼獲得に直結している。実際、「(顧客からは)『何を聞いてもその場で即座に答えてもらえる』という評価を得ている」と白木氏は話す。