この方法ではゲノム全体にわたって多数の遺伝子の違い(SNP:一塩基多型)を検出できるため、従来の一部遺伝子だけの解析よりもはるかに詳しい遺伝構造を明らかにすることができます。
さらに研究者たちは、得られた遺伝子情報からサワガニの集団がどのように枝分かれ(進化)してきたかを調べるため、「ABC解析(近似ベイジアン計算)」と呼ばれる統計的な方法を使い、各集団が分化した順序やその時期を推定しました。
こうした丹念な解析の結果、日本のサワガニは5つの遺伝的集団に大きく分かれることが明らかになりました。
この結果は、これまで示唆されていた「最大で10の集団に細分される可能性」と比べると、より明確な区分が示されたことになります。
この5つの集団は地理的に分布する地域が比較的はっきりと分かれており、四国南部と紀伊半島南東部に分布する「SHI集団」、北海道と本州北部から鳥取県、四国北西部に分布する「HO集団」、九州北部と中国地方の島根県以西に分布する「nKC集団」、九州中南部に分布する「cK集団」、そして鹿児島県南部とその周辺の離島および本州の房総半島〜伊豆半島沿岸に飛び地状に分布する「sKK集団」という5つに分類されました。
特に注目すべきは、こうした5つの集団が必ずしも単純な島や河川による隔たりを越えている点です。
例えば、HO集団は北海道と本州北部にまたがって分布していますが、北海道への進出は人間の活動を介した人為的な移動が関係している可能性が高いことが指摘されています。
一方で、sKK集団は南九州と関東南部という遠く離れた2つの地域に存在し、その中間地域には分布していないという奇妙な分布を示しています。
これは日本列島がかつてどのように形成されてきたかを考える上で興味深い示唆を与える結果です。
研究者たちは、この分布パターンが日本列島の形成過程で起きた火山の噴火や島の形成、さらには過去の海水面の変動といった地質的な出来事と関連している可能性を指摘しています。